Research

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金沢大学 高分子合成研究室では、研究室で 独自に発見した新現象新たに開発した合成法を基に、 未踏の機能を示す新規高分子材料 天然由来原料を活かした環境調和型高分子材料 の開発を進めています。生命の起源を解き明かす基礎化学の領域から実用的な先端材料を開発する応用化学の領域までも取り入れた一貫した研究体制の下、特にキラル高分子を中心とした機能性マテリアルの創製と応用を目指した研究に取り組んでいます。現在は「高分子機能」「高分子合成」「表面科学」「反応開発」「天然由来材料」の5つに大別される内容を中心とした研究プロジェクトが国内および国外との共同研究も交えながら進行しています。各研究の詳細については以下の項目をご覧ください。

Topics

高分子機能:人工ラセン高分子の機能解明およびキラルマテリアルへの応用

高度な機能を示すDNAやタンパク質などの天然ラセン高分子を模倣した人工ラセン高分子の開発が世界的に進められており、情報の増幅、記録、転写などの機能を示すことが明らかになりつつあります。近年では、人工ラセン高分子でなければできない天然ラセン高分子を凌駕する機能の発現や解明、それらの高度な機能に基づく新規マテリアルの開発に注目が集まっています。例えば、ラセン高分子の一つであるポリアセチレン類は光学活性化合物との相互作用によりそのキラリティ(左や右)に対応した一方向巻きのラセン構造(左巻きや右巻き)を誘起されることが知られていましたが、特殊な試薬を添加しなければ光学活性化合物を除いた後にその状態を維持(記憶)することは困難でした。最近我々は、ポリアセチレン類の分子構造を最適化することにより、試薬を加えるなどの追加操作をせずに光学活性化合物を除くのみでラセン構造を安定に記憶できることを世界で初めて見出しました(下図左)。さらに、上記のラセン誘起および記憶現象は固体状態でも生じることから、このラセン高分子を用いて作製したキラルカラムは、事前に通液する光学活性化合物を選ぶことで溶出するキラル化合物の順番を自在に制御できる、前例の無いキラルマテリアルとして機能することを見出しました。キラル化合物を正確に分離する手法は、選択的合成法とともに医薬・農薬分野において不可欠であるなど、ラセン高分子の新規機能の発見とマテリアルへの応用は上記分野を始めとした科学技術の発展に寄与することが期待されます。さらに、当研究室ではラセン高分子の機能を最大限に利用することで、従来技術では検出困難とされてきた微弱なキラリティを検出可能なキラルセンサー、微量の金属で自在に分離性能を切替可能なキラルカラム、僅かなキラリティで大きな円偏光発光特性を示す蛍光材料などの従来技術を凌駕するマテリアルの開発に成功し、現在も大きな不斉増幅を示す不斉触媒や、情報の伝達・記憶および可視化技術などの開発を進めています。

代表的な論文:

· Nat. Chem. 2014, 6, 429–434.

 · J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 8592–8598.

· J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 3254–3261.

· Sci. Adv. 2021, 7, eabg538

· J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 3270–3276. 

· Chem. Commun. 2019, 55, 7906–7909.

· J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 7668−7682.

· Chem. lett. 2023, 52, 136–139

高分子合成:置換アセチレン類の新しい重合法の開発

π共役系高分子であるポリアセチレン類は剛直なラセン構造をとることが知られており、有機EL材料やキラル認識材料としての応用が期待されます。高分子材料の高度な機能化を行うためには、分子量や末端構造を精密に制御できるリビング重合反応が不可欠です。しかし、ビニル系モノマーの重合と異なり、アセチレン系モノマーの重合反応を完璧に制御できる実用的な手法はこれまでほとんど知られていませんでした。最近、我々は、有機合成化学でよく用いられる有機ホウ素化合物とロジウム錯体の触媒反応をフェニルアセチレンの重合に応用することによって、ポリフェニルアセチレンの末端にさまざまな官能基を導入できる多成分触媒リビング重合反応を開発しました(下図)。この手法を活用することによって、これまで合成することが不可能であった、ポリアセチレン系の特殊構造ポリマーや有機/無機ハイブリッド材料などの新しい材料の開発が可能になりつつあります。

一方、二置換アセチレン類の重合はその立体障害のために、一置換アセチレンに比べて難易度が高くなります。特に、ジフェニルアセチレン系の重合法はいまだに限られた古典的な手法しか知られておらず、極性官能基を有するモノマーは重合すら困難な場合が多々あります。最近、我々は、タングステン触媒を用いるジフェニルアセチレン類の重合の改良法を開発しました。また、これまで不明であった重合機構や高分子構造を明らかにすることができ、これらの知見をもとにしてジフェニルアセチレン類の精密重合法の開発に取り組んでいます。

代表的な論文:

· Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 8670–8680.

· J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 16136-16146.

· J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 3604–3612.

· Angew. Chem. Int. Ed. 2023, e202302332 

表面科学:物質表面におけるラセン高分子の科学

人工ラセン高分子は情報の増幅、記録、転写に限らずラセン構造の伸長、反転などの構造的にも特徴的な変化を示すことが知られており、古くから研究が進められています。しかし、溶液や固体状態における挙動に比べて、固体表面におけるラセン高分子の挙動については表面固定化法および測定・評価法の問題から未解明な点が多く残されたままです。特にマテリアルへの応用を志向する際には従来ラセン高分子が利用できなかった材料に応用することができる、さらには表面集積化による協同効果が期待できるなど、ラセン高分子の表面固定化およびその科学の解明は、従来のラセン高分子マテリアルの常識を塗り替えるポテンシャルを有しています。例えば、「高分子機能」の項で示したように、これまでに我々はキラル化合物の溶出順序を切替可能なキラルカラムの開発に世界で初めて成功しています。しかし、ポリマーの溶解性のため溶出順序の切替や光学分割に使える溶媒が限られているため、その解決にはシリカゲル上への固定化が必要となる一方で、従来の直接的な固定法では共有結合形成により溶出順序切替の鍵となるラセン高分子の運動性が制限されるジレンマがありました。そこで、シリカゲル表面に共有結合ネットワーク構造を形成することにより、運動性を保持したままシリカゲル表面に固定化することに成功しました(下図左)。さらに、キラルカラムとしての分離能を評価軸とすることで、固体表面におけるラセン高分子の運動性を明らかにしました。現在では、「高分子合成」の項で示した重合技術を基軸とした新規表面修飾法の開発にも取り組んでおり、従来マテリアルの高機能化や新規マテリアルの開発を進めています。さらに、「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」金沢大学WPI-NanoLSIを通して、世界有数の顕微鏡技術を持つ研究室と表面修飾マテリアルに関する共同研究を進めています。

代表的な論文:

· Polym. Chem. 2017, 8, 4190–4198.

· Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 132, 14779 – 14784.

· Polym. Chem. 2019, 10, 6260–6268.

· J. Chromatogr. A 2022, 1675, 463164.

反応開発:高反応性活性種を活用した新しいπ共役系材料の開発

高分子や重合反応の基礎となる新しいモノマーや素反応の開発にも取り組んでいます。最近では、ホウ素中心ラジカルを活用した分子変換法の開発に成功しています。例えば、ホウ素中心ラジカルを重合で用いたフェニルアセチレン類やフッ素含有芳香族化合物などの共役系分子と反応させることでさまざまなホウ素含有π共役分子を合成することが可能であり、これらは液晶や発光材料としての応用が期待されます。

代表的な論文:

· Org. Lett. 2020, 22, 2054–2059.

· Eur. J. Org. Chem. 2019, 37, 6308–6319.

· Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 9485–9490.

· Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 903–909.

· Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 6357–6361.

· Org. Lett. 2021, 23, 1071–1075.

天然由来材料:バイオマスを活用した機能性材料の開発

近年、国際的な環境問題の解決に向けた取り組みが重要となっており、我々は高分子化学が果たす役割は非常に大きいと考えています。セルロースは自然界に無尽蔵に存在する「バイオマス材料」ですが、溶解性や反応性の悪さのために高度に機能化した材料への応用は限られていました。最近、我々は別のバイオマス材料であるアミノ酸由来の物質とセルロースを組み合わせた新しいイオン吸着材料を開発しました。現在、これらの材料を用いて他の研究室や企業との共同研究を進めており、環境から有害物質を選択的に除去することや、廃棄物から高価な金属を高効率で回収することを目指して研究を行っています。

代表的な論文:

· Biomacromolecules 2023, 24, 3767–3774

· RSC Adv. 2020, 10, 30238 – 30244.

· Chem. Sci. 2019, 10, 4890–4895.

· Polym. Chem. 2017, 8, 4190–4198.

· J. Hazard. Mater. 2019, 380, 120816.

· Polym. Chem. 2018, 9, 2109–2115.

· Polym. Chem. 2017, 8, 2257–2265.

Copyright©︎ 2020, Synthetic polymer chemistry lab., Kanazawa university.

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