界面活性剤の性質は,主に炭化水素鎖からなる疎水基間の疎水性相互作用と,親水基間の斥力的相互作用の兼ね合いで通常決定される。しかしながら一部の親水基には水素結合に代表される引力的な相互作用も関与することが予測できるが,その親水基構造の系統的研究は一般的に困難である。そこで我々はアミノ酸を親水基構造に有する界面活性剤に着目し,種々のアミノ酸からなる界面活性剤を合成し,界面活性能への親水基構造の観点から検討している。以下はミセル形成エンタルピーを臨界ミセル濃度の対数(ギブズエネルギーに相当)に対して示したものである。芳香族アミノ酸である、フェニルアラニン、フェニルグリシンを除くと、これらには負の相関が認められる。つまり親水部位のアミノ酸側鎖の脱水和に伴うエントロピー増加によってミセル形成が促進されているといえる。一方、芳香族アミノ酸のケースでは正の相関が見られることから、ミセル形成時に側鎖の芳香環が相互作用することでミセル形成を促進していることが示唆された。
5. フェニルアラニン型界面活性剤の特殊会合
一部のフェニルアラニン型界面活性剤は、低濃度でいきなり巨大な会合体(ナノリボン・チューブ)を形成し、更に濃度を増加させるとそのサイズが減少して最終的には球状ミセルに転移するような、逆行型会合を行うことを発見し、予想されるそのメカニズムを明らかにした。この現状は親水基間の水素結合やフェニル基間の相互作用が密接に関与していることが分かった。またフェニルアラニンのジペプチドをユニットとする界面活性剤では、特定の色素の共存のもとでナノファイバーを形成し、更に色素の蛍光特性を著しく増加させることが分かった。
6. 生体関連物質と界面活性剤の相互作用
ペプチド,脂質,核酸などの生体分子は分子間相互作用を巧みに利用し多くの機能を有している。界面活性剤が人体に作用する際には,これら生体分子とまず相互作用することが考えられる。よってこれらの分子と界面活性剤の相互作用について我々は生体適合性の観点から検討すると同時に,DDSや遺伝子デリバリーへの応用を目標として,リン脂質リポソームやDNA,RNAなどマクロ分子への界面活性分子の集積化を検討している。またカゼインミセルを用いた各種機能性食品の貯蔵に関しても現在検討している。
リン脂質リポソームに対して、アミノ酸型界面活性剤は臨界ミセル濃度の近傍において、協同的に吸着することが分かった。またその際リポソーム表面にある種のチャンネルを形成するため速やかに内包物質を放出させることができる。