カーボンナノチューブ・無機ナノ粒子−環状ホスト分子からなる
ハイブリッド材料の創成


単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、その特有な電気的・力学的性質から、エレクトロニクス、 機能性材料などの分野への幅広い応用が期待されている。しかし、SWNTは汎用溶媒に難溶であるため、 SWNTをどのように可溶化させるかということは重要な課題であった。さらに近年では、次の研究段階として、 SWNTを単に溶かすだけではなく、溶解したSWNTをどのように応用していくかが重要な課題となっている。 一方、環状化合物であるシクロデキストリン(CD)、カリックスアレーン、ククルビツリルなどは、 その空洞サイズに適したゲスト分子を取り込むことができるホスト分子である。 このような環状ホスト分子を利用したSWNTの可溶化とともに、 その分子認識能に基づく機能性SWNT超分子材料の創成に関して研究を行っている。


シクロデキストリン−カーボンナノチューブハイブリッド
(大阪大学大学院理学研究科原田研究室との研究)


●ゲスト応答性カーボンナノチューブヒドロゲル●

ゲスト応答性カーボンナノチューブヒドロゲル

CDでSWNTを被覆したCD被覆SWNTの構築を行った。 CD被覆SWNTに、ゲスト分子(ドデシル基)を側鎖に導入したゲスト高分子を混合すると、 SWNTヒドロゲルが形成した。SWNT表面のCDに、 高分子側鎖のゲスト分子が取り込まれ架橋点となり、 3次元的なネットワーク構造を形成したためである。 さらに形成したSWNTヒドロゲルに、 より強くCDに包接されるゲスト分子であるアダマンタンカルボン酸ナトリウムや、 高分子側鎖のドデシル基をより強く取り込む異なる種類のCDを加えると、 ゲルはゾルへと転移した。つまりこれは、分子に応答しゾル−ゲル転移を示す、 これまでにないSWNTヒドロゲルである。 超分子化学的手法により構築されたSWNTヒドロゲルは皆無であり、 従来にない機械的・光学的特性を示すと期待できる。


●包接錯体によるカーボンナノチューブの可溶化●

包接錯体によるカーボンナノチューブの可溶化

CDとゲスト分子との包接錯体を用いてSWNTの可溶化を行ったところ、CDのみ、 もしくはゲスト分子のみではSWNT は可溶化しないが、 包接錯体を用いると可溶化するという興味深い現象を見出した。 2つの分子が共同的にSWNTを可溶化した初めての例であり、 超分子化学に基づく新しい可溶化剤であるといえる。

Chem. Lett. 2007, 36(8), 1026-1027.
J. Phys. Chem. C 2008, in press.


水溶性カリックス[8]アレーン−カーボンナノチューブハイブリッド

水溶性カリックス[8]アレーン−カーボンナノチューブハイブリッド

CDを用いてSWNTの可溶化を行ってきたが、他の環状ホスト分子として、 水溶性カリックスアレーンを用いてSWNTの可溶化を行った。 スルホン酸基を有する水溶性カリックスアレーンを用いてSWNTの可溶化を試みたところ、 SWNTは溶解し、SWNTの周りをカリックスアレーンが被覆したハイブリッドが得られた。 さらにハイブリッドにゲストダイマーを加えることで、 SWNTを構成単位とした超分子SWNTネットワークポリマーの創成に成功した。

Chem. Commun. 2007, 4776-4778.


ククルビツリル−カーボンナノチューブハイブリッド

ククルビツリル−カーボンナノチューブハイブリッド

他の環状ホスト分子として、ククルビツリルを用いたSWNTの可溶化を試みた。 ククルビツリルを用いると欠陥のない SWNTは溶解したが、欠陥のあるSWNTは溶解しなかった。 一方、一般的な界面活性剤を用いた場合、欠損のないSWNTも欠陥のあるSWNTも両方とも溶解した。 このことから、ククルビツリルを用いたSWNTの可溶化は、 様々なSWNTから欠損が少なく純度の高いSWNTを分別する、SWNTの精製へと応用が期待できる。

Chem. Commun. 2008, in press.

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