(1) 光学活性アミノ酸系界面活性剤の溶液物性
比較的皮膚刺激もおだやかで,生分解性が良い環境低負荷タイプのアミノ酸から誘導された界面活性剤(アシル化アミノ酸塩)の溶存状態について,分光学的手法と熱力学的観点から解明することを目的としている。特にアミノ酸側鎖の構造や光学異性体の影響の観点から系統的に検討している。(詳細1−1)
最近の研究ではリン脂質ベシクルとの相互作用という物理化学的観点から、皮膚への低刺激性というアミノ酸系界面活性剤の特性を解明している。(詳細1−2) またある種のアミノ酸系界面活性剤は条件により非常に低濃度の水溶液中でナノチューブを形成し,これらは界面活性剤濃度の上昇とともに崩壊することを明らかにした。(詳細1−3) 現在はジペプチド型,トリペプチド型界面活性剤の合成を行い,そのアミノ酸基の種類や配列の違いが界面化学的特性に与える影響について検討している。
(2) 分子集合体の構造変化と微視的環境
蛍光プローブ法(蛍光プローブについて)を主たる手法として、会合体内部の微視的極性および粘性、ミセル形状変化、ミセル間相互作用を検討した。特にミセルの球棒転移やその2次会合点を実験的に検出する方法を確立し、ミセル成長と界面活性剤の分子構造との関連を検討した。(詳細2−1) これまで広く使われてきた蛍光プローブの他に、新しい蛍光プローブを取り入れ、それらの特性を生かして会合体の微視的環境の解明に取り組んでいる。更にこれらの蛍光プローブを修飾してその可溶化位置を調節することで、会合体表面もしくは内部の環境の情報を別々に得ることが可能となる。また本方法はベシクルなど高次の会合体溶液系に対しても非常に威力を発揮することがわかった。(詳細2−2)
(3)機能性界面活性剤と蛍光プローブの新規開発とその評価
界面活性剤分子の会合による機能性発現機構の解明と機能性官能基の導入による相乗効果を検討するとともに、蛍光標識による会合体可視化プローブの開発を行っている。微量で優れた界面活性を有するジェミニ型やフッ素系界面活性剤の合成、およびチオール・ジスルフィドを有する機能性界面活性剤の開発に成功し、(種々の機能性界面活性剤) その水溶液物性と会合挙動を解明した。また、蛍光消光能を有するピリジニウム塩型活性剤による分子分布状態の解明や、(詳細3−1) アンモニウム塩型活性剤会合体によるナノ粒子創成鋳型としての利用を試みた。 (電子顕微鏡で見た水溶液中の分子集合体)
さらに、キノリン・アクリジン誘導体の蛍光消光を利用したミセルの対イオン結合度の簡便かつ高精度な評価法を確立し、ピレン・ベンゾフラザン蛍光標識によるミセル会合体の可視化法を提案した。現在、機能性ジェミニ型界面活性剤による解離会合制御系の構築とミクロ相分離系を利用した分離可溶化挙動の解明を行っている。
(4)水素結合官能基を有するカチオン界面活性剤の合成と核酸との相互作用
DNAやRNAといった核酸はポリアニオンであるため,カチオン界面活性剤とコンプレックスを形成することから,核酸の保護や輸送に応用できる。特にRNAはその遺伝情報的役割から非常に分解されやすく界面化学的な研究例は未だ多くない。そこでアミノ酸を由来としたアミド基を有するカチオン界面活性剤と核酸,特にRNAとの相互作用によって分子集合体の形状を制御することを目的として検討を行っている。