新規ジェミニ型界面活性剤の開発と機能性溶液
界面活性剤分子同士を連結鎖で繋いだ形のジェミニ型は臨界ミセル形成濃度が低く良好な界面活性を示しますが、機能性の賦与と水溶性の改善が課題となります。我々はジスルフィド連結鎖を有する水溶性に優れたジェミニ型や疎水鎖末端にチオエステルを有する界面活性剤を開発しています。チオエステルを有する二鎖型界面活性剤は、加水分解と酸化に伴いジェミニ型に変換され、ベシクル成長することを見出しています。pHや酸化還元等の外部刺激に応答するミセル・ベシクル転移等、会合状態と可溶化物放出の制御を目指しています。
蛍光プローブ法による会合挙動の解明
各種蛍光プローブの探索と界面活性剤の蛍光標識により、ミセル内部とバルク水相の両面から会合体構造を検討しています。特に、キノリン・アクリジン誘導体の蛍光消光挙動を利用して、ミセルの対イオン結合度の簡便かつ高精度な評価方法を確立しました。これまで対イオン結合度は電気伝導度法や起電力法で決定されてきましたが、共存イオンや吸着の影響によるデータの再現性が問題となっています。この方法では、高感度でイオン選択的な蛍光消光により、ミセル表面への対イオンの競争的な結合に関する知見も得られます。
アミノ酸型およびペプチド型界面活性剤の会合体形成
界面活性剤の性質は,主に炭化水素鎖からなる疎水基間の疎水性相互作用と,親水基間の斥力的相互作用の兼ね合いで決定されます。しかしながら一部の親水基には水素結合に代表される引力的な相互作用も関与することが予測されますが,その親水基構造の系統的研究は一般的に困難です。そこでアミノ酸を親水基構造に有する界面活性剤に着目し,種々のアミノ酸からなる界面活性剤を合成し,界面活性能への親水基構造の観点から検討しています。親水部位のアミノ酸側鎖の脱水和に伴うエントロピー増加によってミセル形成が促進され、芳香族アミノ酸のケースでは側鎖の芳香環が相互作用することでミセル形成を促進していることが示唆されました。
アミノ酸界面活性剤の会合体形成
一部のフェニルアラニン型界面活性剤は、低濃度でいきなり巨大な会合体(ナノリボン・チューブ)を形成し、更に濃度を増加させるとそのサイズが減少して最終的には球状ミセルに転移するような、逆行型会合を行うことを発見しました。現状では親水基間の水素結合やフェニル基間の相互作用が密接に関与していることが分かっています。またフェニルアラニンのジペプチドをユニットとする界面活性剤では、特定の色素の共存のもとでナノファイバーを形成し、色素の蛍光特性を著しく増加させることが分かっています。
生体関連物質と界面活性剤の相互作用
ペプチド,脂質,核酸などの生体分子は分子間相互作用を巧みに利用し多くの機能を有しており、界面活性剤が人体に作用する際には,これら生体分子とまず相互作用することが考えられます。よってこれらの分子と界面活性剤の相互作用について我々は生体適合性の観点から検討すると同時に、DDSや遺伝子デリバリーへの応用を目標として、リン脂質リポソームやDNA、RNAなどマクロ分子への界面活性分子の集積化を検討しています。またカゼインミセルを用いた各種機能性食品の貯蔵に関しても検討しています。リン脂質リポソームに対して、アミノ酸型界面活性剤は臨界ミセル濃度の近傍において、協同的に吸着することが分かっており、リポソーム表面にある種のチャンネルを形成するため速やかに内包物質を放出させることができます。
固液界面における分子の吸着・非吸着の分子論的理解
固液界面おける化学物質の吸着・非吸着のメカニズムを理解することは、機能性材料の創出にとって大変重要です。例えば、エネルギー貯蔵材料や水処理膜から、超撥水・超親水材料、人工血管まであらゆる先端材料において選択的な吸着・非吸着の制御手法が必要とされています。
液中で原子・分子スケールの構造を直接観察することのできる原子間力顕微鏡(AFM)技術を駆使して、吸着・非吸着に関わる化学構造を特定し、その分子論的理解を進展させることを目指しています。通常は直接観ることのできない原子・分子の世界を覗くことができる研究課題です。
ナノ空間とゲスト分子の2分子間相互作用力分布の実空間計測法の確立
空間空隙材料による選択な貯蔵・輸送・分離・変換を実現するためには、ゲスト分子がどのような相互作用を受けてナノ空間空隙に接近・吸着するのか分子スケールで理解することが重要です。ゲスト分子と空間空隙の間に生じる相互作用力を3次元空間で直接計測する新しい先端AFM技術を開発し、ゲスト分子の吸着エネルギーに関する考察や吸着サイトの可視化を実現する基盤的計測手法を確立することを目指しています。
この計測手法を実現することができれば、混合物から有用物質を効率的に回収する新規材料や、エネルギー変換材料の開発に貢献できます。